メガネにまつわる、ちょっとディープな世界をご紹介。第一弾は、メガネを支えるために必要不可欠な『鼻パッド』について。掛け心地を左右する重要なパーツでもある鼻パッドですが、実はJINSでは2~3年に一度、材質やフォルムが見直されているんです。日本人の顔にフィットする鼻パッドとは、どのような形状のものなのか。現在のカタチに辿り着くまでに、どのような変遷を辿ってきたのか...。メガネに対して並々ならぬこだわりと、マニアックなほどの豊富な知識を持つ、JINSのデザインチームが生み出す珠玉の一品。今回は、チーフデザイナーの北垣内(きたがいと)さんが、その想いを熱く語ってくださいました。
--そもそも鼻パッドって、何種類くらいあるのですか?
北垣内:まずは、大きく2つに分かれます。鼻パッドが独立している『クリングスタイプ』と、鼻パッドがフレームと一体化している『鼻盛りタイプ』。クリングスタイプはメタルフレーム、鼻盛りタイプはセルフレームに使われることが多いです。

今、JINSで取り扱っているクリングスタイプの鼻パッドは7種類あって、その中でも一番多い素材がニュクレルという硬いプラスチック。ヴィンテージっぽい質感と色味で3種類ほどあり、それぞれ大小2サイズご用意しています。Airframeなどの軽いメガネには、柔らかなシリコン製の鼻パッドを使用し、ディテールにこだわったデザイン性の高いメガネにはチタン製や、メタルをシリコンでカバーした変わり種を使うこともあります。目元をカバーする必要があるJINS花粉CUTには、ゴム製の特殊な鼻パッドを採用しています。

--こんなに種類があったとは!? なぜ、複数の種類が必要なのでしょう?
北垣内:鼻パッドには機能性と意匠性、2つの役割があり、メガネそのものの機能やデザインによって変えるんです。お客様のメガネが壊れた時にもすぐ修理対応できるように、より良いラインアップを揃えています。
--過去には、どんな鼻パッドがあったんですか?
北垣内:2014年頃には、フィット感を高めるため、立体的な形状をした3D曲面鼻パッドを開発したんです。ただ、鼻筋の通った立体的な顔立ちの方にしかフィットしなくて(苦笑)。鼻筋が通っていない人だと曲面の一部しか鼻に当たらなくて、かえって負担が掛かったので、「もう少しフラットにしよう」ってなったんです。 次にもう少し曲面がフラットな鼻パッドを、トウモロコシ由来のコーン樹脂で作りました。 コーン樹脂は滑りにくくて、肌当たりもよかったんですよ。でも、温度による影響を受けやすく、真夏などの高温・高湿の影響を受けるような場所では真っ白く変色してしまう懸念があるため、長く劣化の影響が弱い素材に変更しました。
--現在の鼻パッドは曲面が緩やかで、ほぼフラットですよね?
北垣内:そうですね。日本人の平均的な顔型のデータをベースにしたり、サンプルを作っていろんな人にかけてもらったりするなかで、曲面を緩やかにして、面で支える方が掛けていてラクだという結論に至ったんです。「できるだけ存在感をなくして、黒子的なポジションに徹した方がいいよね」という話も出たので、デザインもシンプルにして、自然に顔の形に溶け込むような今の形になりました。 より存在感を消すために、クリングスと鼻パッドを接続する中芯を透明にしたこともあるんです。でも、汚れが目立つし、透明のプラスチック芯が折れやすいから、現在の金属製に戻しました。

--クリングスタイプと鼻盛りだと、どちらの方がフィットしやすいのでしょう?
北垣内:メガネをかけ慣れていない方には、調整性が高いクリングスタイプをオススメします。鼻の幅や高さに合わせてクリングスを調整することで、鼻パッドの位置を変えられます。日本を始め、アジア諸国での主流は、2回曲がっている"S字クリングス"というタイプです。ちなみに、日本のメガネ処方の基準では、角膜の頂点からレンズまでの距離が『12mm』と設定されているので、その距離感になるようにクリングスを調整できるとベストです。鼻が高い人が多い欧米では、幅だけを調整できる"U字クリングス"が多いですね。

--試行錯誤を経た現在の鼻パッドは、究極系に近いですか?
北垣内:どんどん良いものを探してきたり開発し、お客様へ提供していますが、アイディアは他にもあり、究極系はまだ先にあるのではないかと考えていて。 ほんの小さなパーツに過ぎませんが役割が大きいものなので、日夜研究しているところです。JINSのメガネは、意匠性を高めることはもちろん、様々な課題を解決していくことも重要な役目だという考えがあるんです。その人その人の根本的な課題解決をして、製品がより多くの人の手に渡って、いい世界になっていったらいいなと。

--お話を聞いていると、メガネを選ぶ時に鼻パッドにも注目したくなります。
北垣内:フレームって、時代や流行によって変わるじゃないですか。でも、鼻パッドやフレームとテンプルをつなぐヒンジ(丁番)って大きくは変化しないからこそ、メーカーの個性やブランドアイデンティティが出やすいところなんですよね。JINSは質のいいものを作るという前提は残しつつ、もっと洗練させていけば、価格を抑えながらもっといいものを提供できるんじゃないかと考えてます。これは個人的な考えですけど、鼻パッドもヒンジも、いくつものデザインや素材、パターンを用意するのではなく、突き詰められた"1種類"を提供できるようになるのが一番いいと思っています。
--なぜ1種類に絞る方がいいのでしょう?
北垣内:たった一つの形や素材で統一されれば、すべてのメガネがそれで構成される訳ですから、無駄なものを作らなくていい。つまり、鼻パッドに不具合があっても汎用性高い1種類ですぐに対応できる。それでいて地球にやさしい。JINSのように大量生産をしているメーカーは、特に意識したいところだと思います。1種類であればお客様も悩む必要がないし、店側もお客様にスムーズに対応できる。みんなにとって嬉しいですよね。
--確かに、究極の1つが開発されたら、好循環が生まれそうですね。
北垣内:ただ、実際にそうなるには乗り越えなければならない課題がいくつもあるので、だいぶ時間がかかりそうですね...。なので今はシンプルに、メガネを選ぶときには「鼻パッドの違い」にも注目してみてほしいですね。「男性向け、女性向けでパッドのサイズが違うんだな」とか「このメガネは金属製の鼻パッドだ」とか。ちょっとマニアックな感じになってしまうかもしれませんが、違いを発見していただけたら嬉しいです。メガネのデザインや用途、マッチするスタイルに、鼻パッドも連動していることに気付いていただくと、メガネ選びがより楽しくなるんじゃないかなって思います。
時代に即したメガネを追求し、お客様の声にも耳を傾けてきたJINSならではのこだわりが詰まった鼻パッド。よくよく見ると形状や素材が違い、掛け比べてみるとフィット感や肌触りが異なることに気付くでしょう。JINSでメガネを選ぶ際には、ぜひ鼻パッドもチェックしてみてくださいね。